紫園香フルート・リサイタル
日本を代表するフルーティストのひとり、紫園香のリサイタルはデビュー35周年を記念として満員の聴衆の中、バッハの「ソナタニ長調BWV529」(キルヒナー編)、フランクの「ソナタイ短調」で幕を開けた。藤井一興のピアノと紫園香のフルート、最初は少し固さを感じさせたが、次第に明るく伸びのある音色と高い音楽性に裏付けされた心に響く演奏を展開した。休憩後、リヴィエ「独奏フルートのための“やさしき鳥たち”」で独自の世界観で紡ぐと、続く委嘱作品、金ゴードン希文(台湾、1957年生まれ)の「ソロフルートとオーケストラのための“鷲のように新しく”イザヤ40:31」(世界初演)では、語るように音楽を表現し新鮮な作品世界を描いていた。クラリネットに柳瀬洋を迎えたエマヌエルの「フルートとクラリネット、ピアノのためのソナタ作品11」は絶妙な融合感でしっとりとしたトリオ・アンサンブルを聴かせてくれた。アンコール、柳瀬佐和子「祝福」他の美しさに聴衆は盛んな拍手を送った。(5月23日、東京文化会館小ホール) (福田 茂)
THE FLUTE 記事 掲載内容
紫園香デビュー35周年記念リサイタル@東京文化会館(2018.5.23)を聴いた。彼女のデビュー当時からずっと聴き続けきたが、その進境の目覚ましさは特筆に値する。
冒頭のJ.S.バッハ『ソナタBWV525』は流麗そのもの、Gloria感に輝いていた。C.フランク『ソナタ』は彼女のライフワークとも言える曲で、その深まりはフルートという楽器を超えて響いた。J.リヴィエ『やさしき鳥たち』は、色彩の多様性に満ち、会場が深い森のようだった。また台湾の世界的作曲家、金希文氏の『鷲のように新しく』は世界初演、まさに圧巻の演奏。聖書が題材となった曲だが、鷲がさまざまな試練を通りながらその度に再生し高く舞い上がって行く様が見事に表現された。現代奏法が駆使されたが、それが彼女自身の言葉に聞こえた。 最後に柳瀬洋氏(Cl)を迎えてM.エマヌエル『トリオソナタ作品11』、洒脱なリズム、音色、会話のようなアンサンブル、満場の聴衆は沸き返り、2曲のアンコールでは涙する人も多く見受けられた。さすがにデビュー当時からずっとコンビを組んで来た藤井一興氏(Pf)との息もピッタリで、実に充実した一晩だった。(J.Y.)