理想を具現化した紫園のフルート
音楽による奇跡体験
屈指のアンサンブル・ピアニストである藤井一興との共演で開催される紫園香(fl.)のリサイタルは、毎年超一流の内容であり、筆者に深い感銘を与えてくれたが、今回はなかでも別格の内容であり、音楽による奇跡を体験させてくれたといっても過言ではないだろう。至難なプログラムを手掛けた紫園は、表現や解釈の機微をこれ以上なく熟知した藤井のピアノと見事に一体化し、一つの理想を具現化したかのようなレアリザシオンを可能たらしめていた。5曲全部がそこに神が降臨したような錯覚を抱かせる究極の名演であったが、その軌跡にも似た世界は、評論家歴が40年以上になる筆者もこれまでに接したことがないものであった。
音楽評論家・柴田龍一
2024年9月14日/王子ホール 紫園香 フルートリサイタル ~西の風 東の精神(こころ)~